
ミナミマグロとは(呼び方など)

ミナミマグロ(南鮪、学名 Thunnus maccoyii、英名:southern bluefin tuna )は、スズキ目サバ科に分類されるマグロの一種です。名前の通り南半球に広く分布するマグロで、逆に南半球でなければ生きられないマグロです。インド洋の南方で多く漁獲されることから別名「インドマグロ」、「ゴウシュウ(豪州)マグロ」とも呼ばれます。
業界内では40kg以下のミナミマグロを「コマ」「コマグロ」「コインド」と呼び、40kg以上あるミナミマグロを「大インド」と呼びます。「みなみまぐろ」とは仕事上はいいづらいので、通称「インド」と呼ぶことが多いです。
ミナミマグロの特徴

成魚はやや大型で体長2m前後、体重100km前後に達することがあります。ミナミマグロは餌を高速で泳ぎながら捕まえることや、危険を回避するために、水の抵抗や無駄を省くように紡錘形をしています。また、効率よく高速で泳ぐために、胸鰭(ムナビレ)、原鰭(ハラビレ)、第一背鰭(セビレ)を格納できるようになっています。
泳ぐ速度は通常は30km/h~60km/h、最高速度で100km/h~160km/hで泳ぐとも言われています。とはいうものの、ミナミマグロの生活、産卵、寿命、成長スピードなど正確な根拠等はなく、謎が多い魚といえます。

一番美味とされるサイズは80kg~100kg前後のサイズと言われ、成魚として熟成していて筋も少なく非常に美味です。レシピはお刺身や寿司でいただくのが最高です。
日本人の食生活や欧米化が進み「トロブーム」となり、巷でトロがもてはやされています。マグロの女節(人間でいうお腹側)の「カマ」(えらやむなひれ付近)から臍鰭(ヘソヒレ)辺りを「大トロ」、男節(人間でいう背中側)の皮ぎしなどが「中トロ」と呼び、口の中でとろける食感はなんとも言えません。
ミナミマグロの生態
ホンマグロはどの海域でも比較的見られますが、ミナミマグロの場合、南緯の太平洋、インド洋、大西洋にしか生息しない希少種です。通常、群れて高速で回遊しています。
餌はオキアミやイカ、えび、鯵(アジ)、鰯(いわし)などの小魚などを捕食しています。
有名な話ですがマグロやカツオは生まれたときから泳ぎ続けなければ死んでしまいます。口を半分あけたまま泳ぎ、口からエラを通過する海水から酸素を取り入れて呼吸をしています。
睡眠は瞬間的に寝ることが確認されていますが、ゆっくりと泳ぎながら寝るようです。人間の脳は大きいため一定の睡眠が必要ですが、マグロの脳はワインのコルク前後の大きさのため、人間のように長時間の睡眠を必要としないようです。
ミナミマグロの生息地(海域・漁場)

① ケープタウン西経沖 南緯:40-45℃、西経:18-0℃
冷凍の南まぐろの中で最も評価が高い漁場です。脂ののりは一級品で、脂の色が白いものが多く「白脂」と呼び、赤身とのコントラストは美しいです。築地魚市場(豊洲市場)や焼津魚市場などプロの世界では非常に人気が高い漁場です。脂の質が上質でキメが細かく鮮やかです。赤身にも身に締まりがあり水っぽくなく明るい赤色が特徴です。
② ケープタウン東沖 南緯:38-45℃、東経:10-50℃
ケープタウン西経の次に評価の高い漁場です。比較的魚体が細く赤身のまぐろが多く、脂の色はケープタウン西経沖と比べるとやや赤色に上がります。身に締まりがあり濃厚な色合いが特徴です。
③ ニュージーランド沖 南緯:35-45℃、東経:169-173℃
ケープタウン沖の次に評価が高い漁場です。まぐろの色目が濃く赤身のマグロがやや多いのが特徴です。少し専門的な話ですが、尾を切断して評価をしますが、尾の断面よりお腹の断面の方が脂が強くなる特徴があります。当たり前のように聞こえますが、尾で脂があってもお腹に脂がないマグロもいます。
④ シドニー沖 南緯:38-42℃、東経:150-155℃
他の漁場に比べてやや魚体が小さい漁場です。赤身のまぐろが少なく平均的に脂がのっているのが特徴です。ケープ沖やニュージランド沖と比べると、やや身質が柔らかく色目は薄い色や濃いめの色など様々です。
⑤ 南インド水域 南緯:38-43℃、東経:95-110℃
赤身のマグロが少なく、脂ののりが良く魚体が大きいのが特徴です。魚体を見ただけでは非常に丸々としていて、いかにも脂がありそうな魚体をしていますが、解体していくと脂が消えてしまうことがあるまぐろ屋泣かせな漁場です。当然その逆のパターンもあるため、尾を切っただけでは評価しにくいのも特徴です。
⑥ フリーマントル沖 南緯:30-35℃、東経:80-115℃
赤身のマグロが主で脂ののったまぐろは少なめの漁場です。赤身の色目がやや濃く、身が柔らかいのが特徴です。
ミナミマグロの旬
一般的に水揚げを行う「水揚げの旬」と
漁獲される「漁場の旬」の二つがございます。
水揚げの旬
南まぐろは日本に6月から11月前後に水揚げされるため、春〜秋が水揚げの旬となります。南まぐろは南半休に生息しているため、日本と季節が真逆です。主に4月〜9月頃、冬に脂を蓄えたマグロを漁獲して、夏から秋にかけて日本で水揚げを行います。
水揚げしてすぐに消費してしまう訳ではなく、水揚げ後はマイナス60℃の超低温冷蔵庫へ保管することが多いため、水揚げした時期より若干ずれたお盆や、年末等にまぐろを食べることが最も旬ではないかと思います。超低温冷蔵庫に保管中は鮮度が落ちにくいため通年旬を楽しめると思います。
漁場の旬
漁場ごとに旬は異なります。またその年によって良いとされている漁場や月が悪かったり、またその逆のパターンもあるので一概には言えませんが、一般的な旬をご説明致します。
①ケープタウン西経沖 |
4月〜7月 |
---|---|
②ケープタウン東沖 |
4月〜8月 |
③ニュージーランド沖 |
5月〜6月 |
④シドニー沖 |
4月〜8月 |
⑤南インド水域 |
8月〜12月 |
⑥フリーマントル沖 |
10月〜11月 |
ミナミマグロの歴史
ホンマグロは日本近海でも回遊しているため、縄文時代の貝塚で骨を発見するほど歴史は深いですが、ミナミマグロが意外に歴史は浅いです。1960年代頃から冷凍技術の発達と遠洋漁業の発展から漁獲することができるようになり、1980年代には約2万tの搬入があったようです。
現在では、ホンマグロと人気を二分するほど美味なため、資源保護について国際的に管理されるようになりました。1994年には主要な漁業国の日本・オーストラリア・ニュージーランド三国によって「みなみまぐろ保存委員会」(CCSBT - Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna)が発足。その後韓国、フィリピン、南アフリカ、EUなども加盟しました。しかし割り当てられた漁獲量以上の漁獲が発覚したり、非加盟国によるルールを守らない漁獲も続いたりしていました。
ミナミマグロの利用

漁法は「延縄(はえなわ)」「巻き網」などで漁獲されます。搬入の形態は「生鮮」と「冷凍」の大きく二つに分けらていて、市場に出回る割合は冷凍物が大半を占めています。用途はお刺身、寿司種、葱鮪鍋(ねぎまなべ)、塩焼き、照り焼きなど、幅広く利用されています。
静岡県焼津市にある焼津魚市場の冷凍マグロ売り場では、冷凍のミマミマグロのせり売りが行われています。特に40kg以下のミナミマグロの入荷が多く、小型のミナミマグロだけなら築地魚市場をしのぐほどの入荷があります。小型のミナミマグロの全国相場は、焼津魚市場または築地魚市場の2市場で決定しているといってもよいでしょう。

焼津魚市場は南まぐろの入荷が多いため、地元のおすし屋さんでは南まぐろを専門に扱う店が数多くあります。焼津の寿司屋の中では「南まぐろしか扱わない」というこだわりを見せる老舗も存在するほどで、プロの視点から見ても納得がいくマグロと言えます。
最近では、原油高の影響、世界的なマグロの需要拡大などにより、天然物の南まぐろは希少種となりつつあります。天然物は少ないものの養殖物のミナミマグロの流通が盛んで、天然物と比べて価格が安価なことから、回転すしや量販店など巷で見かける南マグロは養殖物が近年多くなってきています。
天然物と養殖物の違い
天然ミナミマグロ | 養殖ミナミマグロ | |
---|---|---|
画像 | ![]() |
![]() |
色目 | ルビー色で鮮やか | 薄い赤、ピンク色 |
味 | 甘みが強い | 甘みは弱い |
味 | 締まりがある | 柔らかい |
大きさ | 中〜大型 (30kg〜100kg) |
小型 (20kg〜40kg) |
価格 | 不安定 | 安定 |
色目について
天然ミナミマグロの色目は鮮やかなルビー色で明るい色目です。
養殖ミナミマグロの色目は薄くて淡いピンク色です。天然物のように濃い赤ではございません。
味について
天然ミナミマグロの味は甘いです。天然物ならではの強い甘みと奥行きがある深い味わいです。
養殖ミナミマグロの味は天然物に比べるとコクが弱く、甘みもそれほど強くありません。
身質について
天然ミナミマグロの身質は締まりがあり「ちぢみ」という高鮮度の身質が多いのも特徴です。
養殖ミナミマグロの身質は柔らかく、天然物ほど身に締まりはありません。
大きさについて
天然ミナミマグロの大きさは、平均で50kg前後です。(漁場や時期により変動します)100kg以上の大型が水揚げされることがあります。
養殖ミナミマグロの大きさは、平均で30〜40kgくらいです。60kg以上のものはあまりなく小〜中型が多いです。
価格について
天然物の価格は養殖物と比較して不安定です。夏から秋に水揚げを行いその後一年間は水揚げがないので、在庫がなくなる春から初夏にかけて相場が高騰します。そのため年間を通して同じ値段、同じ評価で推移することはないため価格は不安定と言えます。
養殖物の価格は一キロ当たり数百円程度の上げ下げはありますが、天然物ほど不安定ではございません。毎年消費できる分の生け込みを行うなど計画的な生産が行われているため、価格は安定しています。