マグロの加工手順(作業工程)

FNC 福一西島コールドストレージ

はじめに(マグロ加工は危険と隣り合わせ)

冷凍マグロの加工は非常に危険を伴う仕事です。理由は-50℃以下で冷凍されたカチコチのまぐろを、自在にカットするためには、「バンドソー」や「グラインダー」という、刃が高速で回転する機械を使用しなければなりません。仮に腕や指が巻き込まれたら、軽症ではすみません。指を切断する可能性もあります。万が一のために備えてゴム手袋のしたには「メッシュ」と呼ばれる鎖帷子(くさりかたびら)のような手袋で手を保護をして作業します。つねに作業中は危険と隣り合わせの作業ですので、肉体的にも精神的にもハードな作業です。

バンドソーの画像

スーパーに並んでいるようなまぐろの柵になるまでには、このような背景がございます。全自動スイッチポンッ!で、まぐろのサクが完成することはありません!人間よりも重いマグロを加工したり、場合によっては1本で200kgを超える本鮪(本マグロ)を加工する時もあります。加工員の苦労があるからこそ、スーパーや回転すしにまぐろが並ぶのです。是非、これを機会に知っていただければ幸いです。

サク取り加工

原魚受け入れ

-40℃以下の冷凍庫からまぐろを加工場へ運びます。冷蔵庫にまぐろを保管するために「パレット」という入れ物を使用して管理しています。約1.2t(トン)前後のマグロが入ります。マグロのサイズが25kg〜40kgとすると、パレットに35〜45本位のまぐろが入り、40kg〜70kg位なら、20本〜25本。70kg以上なら10本〜15本位まぐろが入ります。

マグロ運搬中の画像

リフトは超低温へ入室するための特別仕様で、暖房設備が完備されています。が、-40℃の冷凍庫へ長時間入室していると、足元から冷たくなってきます。リフトでパレットを持ち上げて台の上にマグロを出庫して原料の受け入れが完了します。

マグロがパレットから出た画像

マグロの頭(兜、カブト)をバンドソーでカット

画像ではわかりにくいですが、単純に頭をカットする訳ではなく、ちゃんとカットする位置が決まっています。まぐろの魚種やサイズによってカットする位置が微妙に違うため、一定の経験者でなければカットできません。頭を小さめにカットしてしまうと、本体の方に余分な部分がついてしまったり、また頭を大きくカットしてしまうと、頭以外の身の部分もカットしてしまったりと、頭カットの作業も奥が深いのです。

マグロの頭をカットする画像

四つ割り加工(最重要工程)

画像を見ると「二つに切ればいいんでしょ?」「簡単そう」って思われるかも知れませんが、ここが一番大事な工程です。

どこが難しいかというと、マグロの背骨の真ん中に最初から最後までバンドソーの刃を通過させなければなりません。マグロの魚体が透き通っていれば、背骨の真ん中に刃を入れることは簡単ですが、なにせ画像の通り外側しか見えません。

マグロ加工 四つ割加工

では、どこで判断するか?!それは「音」です。バンドソーの刃が背骨をカットする「音」を聞きながら、ちゃんと骨をとらえているか、音を聞きながらカットします。この作業は数多くいる加工員の中でも数人しか出来ない難しい作業です。

作業自体も難しいのですが、製品の出来高にも大きく影響します。例えば背骨の真ん中をカットできなかった場合、「歩留り」が悪くなり、この後の工程すべてに影響が出てしまいます。「歩留り」とは製品の出来高のことを指します。

例えば頭や尻尾がついているマグロを100kg加工するとします。結果的に骨や血合いのない製品の出来高が50kgだった場合、歩留りは50%となります。背骨の真ん中でカットできていない場合、本来は削らなくてもよい部分を削らなければならないため、歩留りが40〜48%と下がってしまうなどの影響がでます。歩留りが下がるとマグロの原価が上がるため、収益も減少します。少し大げさですが、儲かるか儲からないかを左右しているのがこの作業ともいえます。

まぐろが大きくなればなるほど能力が必要です。全身を使ってマグロを押し出してカットするため、体力も必要です。まぐろのセンターをとらえる「技」「経験」「正確さ」。非常に責任重大な仕事で、熟練者やリーダー格などが行う工程です。

マグロのフィーレ、ロイン加工

マグロフィーレの画像

まぐろを真ん中で切った状態(真っ二つの状態)を「フィーレ」と呼びます。フィーレの状態になると骨が見えるため、背骨の真ん中をカットし易いですが、フィーレを支える両手で微妙に角度調整が必要です。特に南マグロ(ミナミマグロ)は骨の位置が特殊なため、他のマグロより若干斜めに刃を入れます。マグロの種類によって同じ加工形態でも微調整が必要など、奥が深いです。

フィーレの状態から真っ二つにカットすると、「ロイン」と呼ばれる形態になります。ロインの状態からは、画像の通り背骨をカット、また肋骨や血合いなどを取り除きます。この作業でも骨と身の間へ上手に刃を滑らせないと、骨側の捨てる部分に身がついてしまうなど、歩留りに影響が出ます。

よくTVなどであばら骨にスプーンや貝殻をあてて、すき身をすくい取るシーンがありますが、大方ここのロイン加工で肋骨を除去する工程で作られます。

マグロロイン 背骨を除去する画像

磨き(骨取り、皮むき、スキンレス加工)

R出刃でマグロを磨く

磨きとは、マグロの骨や皮などをR出刃(アールデバ)やT出刃(ティーデバ)で除去する作業のことを言います。布で磨いてきれいにするようにマグロのロインを出刃で磨き込むため、このように呼ばれています。この工程でのポイントは「磨きすぎない」でも「きれいに磨く」ことです。(下の画像はT出刃です)

T出刃でマグロを磨く

私(店長)が研修のためにこの作業を行ったときに、上司に「お金を削っていると思え」と教わりました。磨きすぎてしまうと、本来お刺身で食べれる部分を捨ててしまうことになってしまい、磨き方が弱いと製品の出来上がりに皮がまだ付いていたりと、不良品が出てしまいます。「磨きすぎない」「きれいに磨く」この中間が最も良いとされています。(納品先の業者様により磨き方の強弱は変化することがあります)

磨き方は、まぐろの尾側から頭側に向けて出刃を繰り返し滑らせます。身と皮の間に出刃を上手に滑らせると、スーッと皮が一気にむけます。(これがかなり快感で日焼けした皮膚が一気に向けたときの快感に似ています)比較的初心者でも作業が行える工程のため、入社したての従業員が行う仕事の一つです。

マグロの皮むき作業(スキンレス)

ただしかなりの肉体労働です。肉体労働の上に厚手の合羽(カッパ)を着ているため、汗だく状態です。数時間連続で作業するため、ヘトヘトになってしまいます。

グラインダーで血合い面除去

グラインダーとは、大工さんが使用する「かんな」の刃のようなもが高速回転しているイメージで、刃にマグロをあてると削れるようになっています。強くマグロをあてれば深く削れて、弱くまぐろをあてると浅く削れます。刃が高速回転しているためにマグロをしっかり持っていないと、マグロごと体を引っ張られるので危険です。バンドソー同様注意が必要です。

マグロの皮むき作業(スキンレス)

ここでの作業は血合い面の除去です。血合いが付いている面のことを「血合い面」と呼びます。血合いはUの字上に身に入っていますが、ここではUの字の上の部分だけ削り取ります。この工程でも経験者でなければ困難な作業で、削りすぎてしまうと歩留まりが悪く、削りが弱いと血合いが残ったりします。絶妙の力加減とどこまで血合いが入っているかなど、魚の構造を熟知していないとできない工程です。

上の画像ではマグロを加工していますが、鰹(かつお、カツオ)などの小型の魚をグラインダーを使用して血合いを除去することもあります。私(店長)が研修中にこの作業を行ってみましたが、血合いを除去している途中、刃の遠心力で手で持っていたカツオが下に吹き飛ばされた経験があります!それ以来怖くて同じ作業は行えなくなりました。素人はご法度な作業ですね。軽症ではすまない予感がします・・・。

検品

いよいよ最終段階に近づいてきました。今まで行った作業ひとつひとつが正確に加工されているか、人間の目視によってチェックをします。血栓(血線、けっせん)というマグロの血の塊等がないか、また除去したはずの皮が付着していないか、小骨が付着していないかなど、総合的に検品を行います。ミスを水際で防ぐ最後の砦です。

検品作業1

ここで作業する人間はマグロに関する知識が豊富なことはもちろん、正確な判断が出来る責任者が行います。例えば血栓と判断したマグロはB級品となり、別の製品として扱われます。ここで誤った選別基準でB級品を選出してしまうと価格に影響が出てしまいます。逆に選別をあまくしてA級品の中にB級品を混ぜてしまえば、信頼を欠いてしまう結果に繋がります。その製品の良し悪しを最終的に判断を下す責任重大なポジションの一つです。

検品作業2

箱詰め

加工が完了したマグロを箱の中に入れます。納品先様によって発泡スチロールや段ボールで梱包します。また、納品先様によっては1箱あたり○○キロ以上、○○キロジャスト、○○キロ前後など、ご注文通りに梱包します。目方が定まらないバラバラの状態で梱包することを「不定貫」と呼びます。また、1箱あたりの目方を揃えて全て同じ重さで揃える形態を「定貫」と呼びます。

マグロをダンボールに直接入れるのではなく「ガゼット」と呼ばれるビニール袋でマグロを包み込むように梱包します。まぐろは皮を剥いた裸の状態にすると、乾燥しやすくなります。乾燥を防ぐためにもっガゼットを使用します。

検品作業1

金属探知

梱包したマグロを金属探知機へ通します。「マグロの金属入ってるの?!」と思うかも知れませんが、ごく稀に入ることがあります。例えば「マグロの釣り針」や「モリ」と呼ばれるマグロを漁獲するための漁具など、漁師さんが使用した漁具が混入する場合があります。このようなことが頻繁にあるわけではございませんが、万が一に備えて金属探知を導入しています。

検品作業1

計量

梱包したまぐろを電子計量します。計量機の上に箱が乗ると、自動的に重さを印字したラベルが発行される仕組みになっています。製品の種類によって異なりますが、ラベルの枚数を1〜3枚同じものを発行することが出来るため、箱の上、箱の横など用途に応じて貼り付けます。また、例えば同じ製品を数百ケース計量後、合計の目方を自動で集計する機能もあります。

検品作業1

保管

いよいよ最終工程です。加工が完了した製品を超低温冷蔵庫(-40度以下、SF級とも呼ぶ)へ保管します。

検品作業1

最後に

今回ご紹介させていただいた工程は、刺身になる前段階の内容です。箱に入ったマグロたちは量販店や回転すしによって刺身へと形を変えて、お客様へご提供されます。従いまして、弊社では流通経路の川上であり、起点となる内容です。

当たり前のことですが、マグロはお刺身やサクの状態で泳いではいません。それらの姿になるまでにこのような作業が行われ、作業のひとつひとつに物語があり、危険が伴う作業も含まれます。全自動ではなくさまざまな企業や人間が携わっていることを知っていただければ幸いです。