マグロの流通経路について

マグロの流通経路

はじめに

マグロの流通経路についてご説明致します。ここでご説明させていただく流通経路はごく一部の例です。一言でマグロといっても刺身用から加熱用まで様々なグレードがあり、グレード毎に流通する経路が異なります。ここでは国内の刺身グレードのマグロについてご説明させていただきます。

マグロはえ縄漁船でマグロを漁獲

高波に襲われるまぐろはえ縄漁船

マグロ漁の今と昔

昔は「借金返せないならまぐろ船に乗りな」とまで言われた過酷な仕事です。(現在の給料は原油高、漁価安等の影響でそれほどでもないが・・・)遠洋まぐろ漁船の場合、一回出港すると1年〜2年ほど日本に帰ってくることはありません。1〜2年の間の漁獲量は、ある歌でも歌われていますが、「♪おいらの船は300t」とありますが、やはり300t弱まで1隻で漁獲することもあります。現在では「運搬船」という運搬を専門とした船が、港と漁場をピストン運動しているため、独航船(マグロ延縄漁船のこと)が港に帰ってこなくても水揚げは可能になりました。一昔前よりリアルタイムで搬入が行われています。

マグロ漁は命がけ

漁師の仕事はまさに命がけ。画像でもわかるように船を覆いつくすような高波が押し寄せることがあります。甲板に船員がいる場合、一歩間違えば波にさらわれてしまうほど強烈です。高波が来た場合、ブリッチで見張っている船員が放送で注意を促して、危険を回避するようになっています。遠洋マグロ漁船の乗組員たちは相当な体力と精神力がなければもたないため、長期的に漁師を継続する人はごく稀と言われるほど過酷です。生半可な気持ちで乗船すると命を落としかねないので、それなりの心構えと自己管理が必要です。現在は外国人が主に乗船しています。外国人は家族の生活費のために、わざわざ危険を冒してまで働こうという気持ちが強いため、船内では活躍が期待できます。

遠洋マグロ延縄漁船が操業する漁場は、およそ「太平洋」「大西洋」「インド洋」の3つに分けられます。太平洋とインド洋は日本から近いですが、大西洋は南米とアフリカの間のため、日本から見たらほぼ地球の反対に位置しています。「大西洋産」のまぐろはスーパーでも見ることができます。遠路はるばる地球の反対側から来たまぐろ。漁師さんが命がけで漁獲したまぐろ。マグロだけではないですが、漁業関係者の方々にはちゃんと感謝してから召し上がりたいものです。

まぐろ漁船の船員の画像

マグロの「一船買い」

マグロ延縄漁船の画像

マグロの一船買いとは

船が満船(積荷がいっぱいになること)になると、日本に向けて出航。まぐろを販売する方法は、「一船買い」「入札」「競り(せり、セリ)」「相対(業者間取引)」などがあります。ここでは一船買いについて説明します。「一船買い」とは、はえ縄漁船の積荷を1社が全て購入するということです。1990年代から2000年にかけては一船買いが盛んで、一船買いを行える業者が数多く存在しました。ハイリスクなビジネスではあるものの、ハイリターンも期待できる仕入れ方法だったので、焼津にも数多くの一船買い業者が存在しました。しかし、2000年以降は魚価の低迷、原油高騰、養殖魚の問題等により一船買い業者は激減。その残された数少ない企業のうち、福一漁業は現在も一船買いが可能です。

遠洋まぐろ延縄(はえ縄)漁船などの冷凍マグロを水揚げする港は、焼津港(静岡県焼津市)、清水港(静岡県静岡市清水区)、稀に三崎港(神奈川県三浦市)などがあります。特に焼津港の水揚げ高は何度も水揚げ日本一になるほど有名で、焼津港でマグロの入札や競り、一船買いを行います。

まぐろの水揚げ

マグロ延縄漁船の水揚げ

まぐろの水揚げは朝7:00または8:00から始まり、最長で17:00頃まで水揚げすることもあります。水揚げというとサンマやイワシのような生魚の水揚げがイメージしやすいですが、冷凍マグロの場合はロープでマグロを括りクレーンで吊り上げて陸揚げします。1回の吊りで2tから3tほど、最大で300t程の積荷がありますので、100回から200回吊りを繰り返し行います。 ただ単純に吊り上げたマグロをトラックに積んで終わりなら話は早いのですが、ここから「目利き」が必要となります。

まぐろの水揚げの中で行う作業として、「選別」という作業を行います。この作業は誰でも行えるわけではなく、基本的にその水揚げしているまぐろを購入している企業が行います。選別の内容はまぐろの色、脂などを確認するために行います。まぐろのサクの状態でも選別を行いますが、水揚げの段階ではまぐろ1本単位で大分類に選別します。

まぐろの選別は基本的にマグロを販売する営業の人間が行う作業で、長年の経験が必要です。その水揚げをした時の相場や仕入れ価格に見合った選別方法など、状況に応じた技能や能力がなければ行えない仕事の一つです。また、相場や状況を理解していても、まぐろ自体の選別方法がわからなければ意味がありません。相場の状況判断とまぐろの目利きの両方をマスターした人間が行う作業です。


マグロの選別方法

マグロの選別方法ですが、少しユニークな方法で選別します。画像を見ると包丁が写っていますが、これを「出刃」と呼んでいます。この出刃をカチコチに凍ったまぐろに刺すことで、脂の有無、色の良し悪しなど確認します。例えば脂がよく乗ったまぐろへ出刃を刺すと、出刃がやや深めに刺さります。赤身のまぐろの場合、出刃を刺しても少ししか刺さりません。

少し余談ですが、この時やや力を入れて出刃を刺すため、脂のない赤身のまぐろを刺した場合、衝撃が手に跳ね返り非常に痛い思いをします。この選別を一日中行うと、手のひらには血豆やタコが出来てしまい、最悪の場合血豆が破けて流血することもあります。また、手のひらだけではなく肩にまで衝撃が伝わるため、症状がひどいと肩が上がらなくなることや、長年出刃を使い続けると、右手と左手の厚みに差が出たりします。

保管

超低温内の様子

超低温冷凍庫ー40度以下の世界

水揚げされた刺身用まぐろを保管する場所が主に「超低温冷凍庫」と呼ばれる冷凍庫です。冷凍マグロの場合、水揚げしたまぐろをそのまま市場等へ出荷するのではなく、一旦超低温冷凍庫へ保管することが多いです。ー40℃以下であれば品質劣化は少なく、獲れたての鮮度を数年間維持できます。よくテレビで見かけますが、バナナで釘が打てたり、濡れたタオルをぐるぐると回すとそのまま凍ります。通常の服装では5分も我慢できません。メガネのまま超低温に入室するとネジが折れたりします。人間がそのまま入室することはあまりにも危険なので、専用のリフトで入室します。

FNC福一西嶋コールドストレージ

2015年に竣工したFNC(福一・西島コールドストレージ)ははSF級(超低温冷凍庫、零下50度以下)は6,400tの保管能力がございます。例えば1.5tの普通乗用車なら4,000台以上入ってしまうスペースです。設備の主な特徴としては省エネ型自然冷媒機器「パスカルエア」(空気冷媒のためフロンガスを発生させず、CO2排出を大幅に削減できる冷却機器)や、1時間に1t以上凍結させるトンネルフリーザーなどを完備しています。

魚市場へ出荷

焼津魚市場

冷凍庫で保存されたまぐろは、量販店、外食産業へ出荷するもの、ネギトロなど最終加工品にしてからスーパー等へ販売、また通信販売など販路はざまざまですが、ここでは市場へ出荷するケースを紹介いたします。

市場へ出荷するためには超低温対応型のトラックで輸送します。冷凍マグロは大体静岡県から東京、または静岡県から大阪へ輸送されることが多いので、夜中に東名高速道路を走ることが多いです。このトラックは特殊な冷凍機が設備されていて、まぐろをカチコチの状態のまま輸送が可能です。翌日の競り(セリ)に間に合うように明け方までに市場へ到着します。

東京のマグロは静岡直送?

豊洲に上場するまぐろの内、70〜80%が冷凍マグロです。そのほとんどが静岡県から出荷されています。よく「築地(豊洲)直送のまぐろ」と表記して販売されているまぐろがありますが、実は築地で水揚げされた訳ではなく、静岡県で水揚げされたマグロが築地に上場しているのです。冷凍まぐろの多くは商社または企業が「一船買い」を行ったものが多いため、相場のカギを握っているのは商社や企業です。市場の動向を読みながら、上場させる数量を調整しています。

加工

加工

マグロの形をした状態から、サクやたたき身などに姿を変えて流通されます。(マグロの詳しい加工はこちら

静岡県にはマグロを加工する工場が多くありますが、豊洲や築地周辺では仲卸業者が加工して配達を行うなど、企業やエリアによってさまざまな流通経路をたどります。最近では市場を通さない市場外流通が多く、一船買い業者と大手回転すしが直接取引することも少なくありません。

マグロの流通経路は昔ながらの道をたどることもあれば、市場外流通、海外向け輸出など時代に合わせて変化・進化しています。消費者のニーズに合わせて時代に対応できる企業になることが必要です。

販売

加工したまぐろは全国の外食産業、量販店等へ流通されます。福一漁業は全国の市場はもちろん直販店が焼津市に1店舗、静岡市に1店舗、テナントや通信販売まで展開しています。まぐろを皆様の食卓に到着させるためには様々な流通経路を経て到着します。漁師さんが命をかけて漁獲、それを目利き人が選別して保管、競り場等へ出荷をして適正な評価や価格で卸売、加工場で骨や皮を外してからスーパー等へ陳列されてやっと食卓へ到着します。まぐろがお客様の手元に届くまでに様々な苦労があることをなかなか調べることはできないと思いますので、こちらのページでその一部をご説明できれば幸いです。